漸くこの二人をも酒の仲間に入れは入れたが要するに座は白けた。先生たちもそれを感じてかほど/\で引上げて行つた。が、我等二人となつても初めの気持に返るには一寸間があつた。
「あなたはさぼし[#「さぼし」に白丸傍点]といふものを知つてますか」と、中村君。
「さア、聞いた事はある様だが……」
「此の地方の、先づ名物ですネ、他地方で謂ふ達磨の事です」
「ほゝウ」
「行つて見ませうか、なか/\綺麗なのもゐますよ」
斯くて二人は宿を出て、怪しき一軒の料理屋の二階に登つて行つた。そしてさぼし[#「さぼし」に白丸傍点]なるものを見た。が不幸にして中村君の保証しただけの美しいのを拝む事は出来なかつた。何かなしに唯がぶ/\と酒をあふつた。
二人相縺れつゝ宿に帰つたはもう十二時の頃でもあつたか。ぐつすりと眠つてゐる所をわたしは起された。宿の息子と番頭と二人、物々しく手に/\提灯を持つて其処に突つ立つてゐる。何事ぞと訊けば、おつれ様が見えなくなつたといふ。見れば傍の中村君の床は空である。便所ではないかと訊けば、もう充分探したといふ。サテは先生、先刻の席が諦められず、またひそかに出直して行つたと見える。わた
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