木枯紀行
若山牧水
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)須走《すばしり》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから2字下げ]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)うと/\と
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[#ここから2字下げ]
――ひと年にひとたび逢はむ斯く言ひて
別れきさなり今ぞ逢ひぬる――
[#ここで字下げ終わり]
十月二十八日。
御殿場より馬車、乗客はわたし一人、非常に寒かつた。馬車の中ばかりでなく、枯れかけたあたりの野も林も、頂きは雲にかくれ其処ばかりがあらはに見えて居る富士山麓一帯もすべてが陰欝で、荒々しくて、見るからに寒かつた。
須走《すばしり》の立場で馬車を降りると丁度其処に蕎麦屋があつた。これ幸ひと立寄り、先づ酒を頼み、一本二本と飲むうちにやゝ身内が温くなつた。仕合せと傍への障子に日も射して来た。過ぎるナ、と思ひながら三本目の徳利をあけ、女中に頼んで買つて来て貰つた着茣蓙を羽織り、脚軽く蕎麦屋を立ち出でた。
宿場を出はづれると直ぐ、右に曲り、近道をとつて籠坂《かごさか》峠の登り
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