にかかつた。おもひのほかに嶮しかつた。酒は発する、息は切れる、幾所《いくところ》でも休んだ。そしていつもの通り旅行に出る前には留守中の手当《てあて》為事《しごと》で睡眠不足が続いてゐたので、休めば必ず眠くなつた。一二度用心したが、終《つい》に或所で、萱か何かを折り敷いたまゝうと/\と眠つてしまつた。
「モシ/\、モシ/\」
呼び起されて眼を覚すと我知らずはつ[#「はつ」に傍点]とせねばならなかつた程、気味の悪い人相の男がわたしの前に立つてゐた。顔に半分以上の火傷《やけど》があり眼も片方は盲ひて引吊つてゐた。
「風邪をお引きになりますよ」
わたしの驚きをいかにも承知してゐたげにその男は苦笑して、言ひかけた。
わたしはやゝ恥しく、惶てゝ立ち上つて帽子をとりながら礼を言つた。
「登りでしたら御一緒に参りませう」
とその若い男は先に立つた。
酒を過して眠りこけてゐた事をわたしは語り、彼は東京で震災でこの大火傷を負うた旨を語りつゝ峠に出た。
吉田で彼と別れた。彼は何か金の事で東京から来て、昨日は伊豆の親類を訪ね、今日はこれより大月の親類に廻つて助力を乞ふつもりだといふ様な事を問はず語
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