。信州海の口へ行くといふ荷馬車挽きであつた。それに亭主を入れて我等と四人、囲爐裏の焚火を囲みながら飲み始めた酒がまた大変なことゝなつた。
折々誰かゞ小便に立つとて土間の障子を引きあけると、捩ぢ切る様な霧がむく/\とこの一座の上を襲うて来た。
十一月一日。
酒を過した翌朝は必ず早く眼が覚めた。今朝もそれであつた。正体なく寝込んでゐる友人の顔を見ながら枕許の水を飲んでゐると、早や隣室の囲爐裏ではぱち/\と焚火のはじける音がしてゐる。早速にわたしは起き上つた。
まだランプのともつた爐端には亭主が一人、火を吹いてゐた。膝に四つか五つになる娘が抱かれてゐた。昨夜から眼についてゐた事であつたが、この子の鼻汁は鼻から眼を越えて瞼にまで及んでゐた。今朝もそれを見い/\、この子の名は何といひましたかね、と念のため訊いてみた。マリヤと云ひますよとの答へである。そして、それはこの子の生れる時、何とかいふ耶蘇の学者がこの附近に耶蘇の学校を建てるとか云つて来て泊つてゐて、名づけてくれたのだといふ。
「昨晩はどうも御馳走さまになりました」
と、やがてそのマリヤの父親はにや/\しながら言つた。
「イヤ、
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