となり、汀からいたゞきにかけ、みつちりと稚松が茂つてゐた。寺の横から岡を越えて裏に出ると、廣い湖面に臨んだ小さな斷崖となつてゐた。腰をおろし、帽をぬげば、よく風が吹いた。そして漸く私は、
『ヤレ、ヤレ。』
といふ氣になつた。
湖には釣舟が幾つか浮び、三味線太鼓の起つて居る所謂遊覽船も一艘見えてゐた。風のためか日光のせゐか、湖いちめんがほの白く輝いて見えた。岡の松はみな赤松であつた。そしてその下草にところ/″\山梔子《くちなし》が咲いてゐた。花の頃の思はるるほど、躑躅の木も多かつた。岡のあちこちに設けられた小徑はまだ眞新しく、新聞紙など散らばつてゐた。惜しいと思つたは稚松の間に混つてゐた椎の老木を幾つとなく伐り倒したことで、みな一抱へ二抱への大きいものであつたらしい。恐らく美しい小松ばかりの山にせむために伐つたものであらう。
二十分もかゝつたか、私は岡を巡つて寺に出た。次の船の來る迄にはまだ二時間もある。止むなく寺の前の料理兼旅館の山水館といふに寄つた。上にあがればめんだうになると思つたので、庭づたひに奧に通つて其處の縁側に腰かけながら、兎に角一杯を註文した。
庭さきの水際の生簀
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