ませう、だが今起きたばかりで、それに御覽の通り私一人しかゐないのでこれから直ぐ出かけるといふわけに行かぬ、追つ附け娘たちが麓から登つて來るから、そしたら早速行つて聞合せませう、まア旦那はそれまで其處らに御參詣をなさつてゐたらいいだらうといふ思ひもかけぬ深切な話である。私は喜んだ。それが出來たらどんなに仕合せだか解らない、是非一つ骨折つて呉れる樣にと頼み込んで、サテ改めて小屋の中を見※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]すと駄菓子に夏蜜柑煙草などが一通り店さきに並べてあつて、奧には土間の側に二疊か三疊くらゐの疊が敷いてあるばかりだ。お爺さんはいつも一人きり此處に居るのかと訊くと、夜は年中一人だが、晝になると女房と娘とが麓から登つて來るのだといひながら、ほんの隱居仕事に斯んな事をしてゐるが、馴れてしまへば結局この方が氣樂でいいと笑つてゐる。
 小屋の背後は直ぐ深い大きな溪で、いつの間にか此處らに薄らいだ霧は、その溪一杯に密雲となつて眞白に流れ込んでゐる。空にも幾らか青いところが見えて來た。では一※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]り※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つて來
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