の並んでゐるのを見たので、それを取つて冷《ひや》のままちび/\飮んでゐると、二十《はたち》歳位ゐの色の小黒い、愛くるしい顏をした娘が下の溪から上つて來た。それと二三語何か話し合ふと老爺は直ぐ齒の無い顏に一杯に笑みを含んで私の方に振向いた。私もそれを見て思はず知らず笑ひ出した。
話は都合よく運んだのであつた。が、何しろその寺はこの山の中でも一番荒れた寺で、住職もあるにはあるのだが平常は其處にゐず、麓の寺とかけもちで何か事のある時のほかはこちらへは登つて來ない、ただ一人の寺男の爺さんがゐるばかりで、お宿をすると云つてもその寺男の喰べるものを一緒に喰べて貰はなくてはならぬがそれで我慢が出來るか、とまた心配相に爺さんは私に問ひかけた。却つてその方が私も望むところだ、何しろ望みが叶つて嬉しい、お爺さんも一杯やらないか、と冷酒の茶椀をさすと、いかにも嬉しさうに寄つて來て受取つて押し頂く。お爺さんも好きらしいネ、と笑へば、これが樂しみでこそこんな山の中にもをられるのだといふ。幸ひ客も無かつたので二人してちびちびと飮み始めた。その途中にふつと氣のついた樣に、若しこれから旦那がその寺でお酒をお上りにな
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