は細い刺を持つて居る。小さいなりにみな相當の樹齡を持つて居るらしく、枝ぶりがいかにも寂びてゐる。花は春の末に開き、こまかく白い。實は秋の頃より眞赤く熟れ、次の年の花が咲いてもなほ半は枝に殘つてゐる。南天の實の粒よりも更に小さくまんまるで、こまかい枝のあちこちにいつぱいに熟れてゐるところは誠に綺麗である。今、隨所の木の根がたに見られる。
齒朶はたいへん森を深く見せる。まつたくこの海ばたの森にこれを見出した時はわたしは驚いた。これの茂みに入つて行つて立つてゐるとツイ其處に自分の住居があらうなどとは一寸考へにくい。
今は虎杖《いたどり》の芽の萌ゆるさかりである。無論山の溪間などにあるやうな大きなのは見られないが、それでも親指位ゐのはある。これはこのまゝ喰べるもうまく、一二時間うすい鹽で漬けておくと珍重すべき漬物となる。たべものゝ話のついでゝあるが、わたしは昨日の夕方、一寸森に入つてたら[#「たら」に傍点]の芽を摘んで來た。味噌あへにして、獨りの晩酌のさかなには恰好であつた。
虎杖を取らうとして森の木蔭に這ひ込んで驚くのは落椿である。椿は花期が永く、いつもなら十二月の末からぼつ/\咲き出
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