庭さきの森の春
若山牧水

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)儘《まま》のを使つてゐる。

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)たら[#「たら」に傍点]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)いろ/\の木が
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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 濱へ出る漁師たちの徑に沿うたわたしの庭の垣根は、もと此處が桃畑であつた當時に用ゐられてゐた儘《まま》のを使つてゐる。杭も朽ち横に渡した竹も大方は朽ちはてゝゐるのであるが、其處に生えた篠竹やその間に匐《は》うてゐる蔓草のために辛うじて倒壞を免れてゐる。蔓草も幾種類か匐うてゐる樣であるが、通蔓草《あけび》が最も多い。そしていまその若葉と、若葉の間に垂れて咲いてゐる花とが、まことに美しい。花は初め袋なりにつぼんでゐるが、やがて小さく開く。色は淡い紫である。
 門を出てこの垣根に沿ひ十間も行くと、徑は森の間に入る。森の木深いところにもこの通蔓草は茂つてゐる。此處は樹木の背が高いだけ、あけびも高く伸び上つて、とりどりの木の梢からその蔓の先を垂らしてゐる。
 
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