森の木はおほかた常盤木である。中でも犬ゆづり葉の木とたぶの木とが多い。たぶの木は玉樟とも犬樟ともいふので樟科の、その葉の匂なども樟に似た木である。犬ゆづり葉は同じくゆづり葉の木そつくりの木で、葉柄の紅いところまで同じである。たゞ葉が本當のゆづり葉より小さい。そのほかには椿、鼠冬青木《ねずみもち》、とべらなどの常盤木が混り、落葉樹には櫨《はぜ》、楢《なら》、楝《あふち》、其他名を知らぬ幾多の雜木がある。
 元來此處は潮風を防ぐために昔から設けられた大きな松原で、年を經た黒松が亭々として茂つて居り、その松の下草に右云うた樣ないろ/\の木が森を成してゐるのであるが、ともするとわたしは此處の松原である事を忘れ、此等雜木の密生してゐる森林とのみ思ふ事が多いのである。松も多いが、雜木は更に茂つて居る。
 此等の雜木を松の下草とするならば、雜木のための下草がまたあるのである。森の深い所ならば虎杖《いたどり》、齒朶《しだ》、少し木の薄い所には茅や芒である。それからこれはわたしは名を知らぬが面白い木がある。幹は眞書《しんがき》の筆の軸ほどで、せい/″\伸びて二尺か二尺五寸、繁々と幾本となく枝を張り、枝に
前へ 次へ
全5ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
若山 牧水 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング