して三月末まで續くのだが、今年は寒さのため咲くのが遲れ、今がまだ盛りといつてよい。この森の或る一部などはいまこの木の落花がそれからそれへと殆んどいちめんに散り敷いてゐる。元來椿の木はその木だけあらはに立つてゐるか、若しくは木立をなしてゐるものである。それが此處の森では他の常盤木に混つて數限りなく立ち續いてゐるのである。他の木を拔いて伸び出でて日向に咲いてゐるもあり、しつとりと木蔭に濕つて咲いてゐるのもある。
椿のほかにいまこの森で目につく花は木苺である。漸う萌え出た柔かな葉のかげに純白色に咲いてゐる。幹がほそくしなやかで、風にゆれながら咲いて居る。
楢《なら》の花、これは葉の芽生えより先に咲かうとするので、時には間違ひ易い。氣をつけて見れば野趣のある花である。
が、何と云つてもこの森には常盤木が多く目につく。花をつける木は少ない。もう少したてば楝の花のむらさきが見られるが、まだ早い。そして、今は雜木の芽の美しい盛りである。
殘念にもわたしはそれら雜木の名を知らない。知らないなりに三種五種とそれ/″\に美しいのを數へることは出來る。野葡萄の蔓の節々についた珠のやうな芽の美しさなど
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