る。
 寒国の花と見え、この近在でも見かけるには見かけるが、信州あたりのゝ方が遥かに色がいゝ。むらさき色の花である。
 桔梗も山国の方がいゝ様だ。

 おなじく山国の花に、竜胆《りんだう》がある。春竜胆もあるが、秋がほんたうの竜胆らしくていゝ。
 これは秋も末、冬のはじめの日向などに落葉に茎を埋められて咲いてゐるのが、ほんたうにいい。濃紫にいくらか藍のまじつたといふ様な深い色、それはどうしても落葉の早い山国でなくては見られない。
   つづらをりはるけき山路登るとて路に見てゆく竜胆の花
   散れる葉のもみぢの色はまだ褪《あ》せず埋めてぞをる竜胆の花を
   さびしさよ落葉がくれに咲きてをる深山竜胆の濃むらさきの花
   摘みとりて見ればいよいよむらさきの色の澄みたるりんだうの花
   越ゆる人まれにしあれば石出でて荒き山路のりんだうの花
   笹原の笹の葉かげに咲き出でて色あはつけきりんだうの花
 また、
   わが妻が好めるはなは秋は竜胆春は椿の藪花椿

 おなじく秋の終りの花に刈萱があり、吾木香《われもかう》がある。
 寂びた様で、おもひのほかにつややかなのは吾木香であらう。故あ
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