うに顏をしかめながらも、美しく飮み乾して、直ぐ私に返した。そしてお兼から徳利を受取つて、またなみ/\と酌ぐ。私は次ぎにそれを姉のお米の方に渡さうとしたが、なか/\受取らぬ。身を小さくして妹の背中にかくれて、少しも飮めませぬと言つてる。千代はわざと身を避けて、
「一杯貰ひね、兄《あん》さんのだから。」
と繰返していふ。面白いので私は少しも杯を引かぬ。
「では、ほんの、少し。」
と終《つひ》に受取つた。そしてさも飮みづらさうにしてゐたが、とう/\僅かの酒を他の茶碗に空けて、安心したやうに私に返す。可哀さうにもう眞赤になつて居る。
私は乾してまた千代にさした。一寸|嬌態《しな》をして、そして受取る。思ひの外にその後も尚ほ三四杯を重ね得た。私は内心驚かざるを得なかつた。
でも矢張り女で、やがて全然《すつかり》醉つて了つて、例の充分に發達して居る美しい五躰《からだ》の肉には言ひやうもなく綺麗な櫻いろがさして來た。特に眼瞼《まぶた》のあたりは滴るやうな美しさで、その中に輝いてゐる怜悧さうなやゝ劒《けん》のある双の瞳は宛然《さながら》珠玉《たま》のやうだ。暑くなつたのだらう、切りに額の汗を拭
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