そのうち母の平常の癖で葛湯《くずゆ》の御馳走が出た。母自身は胸が支《つか》へてゐるからと言つて、藥用に用ゐ馴れて居る葡萄酒をとり寄せて、吾々にも一杯づつでもと勸むる。私はそれよりもといつて袋戸棚から日本酒の徳利を取出して振つて見ると、案外に澤山入つて居るので、大悦喜《おほよろこび》で鑵子の中へさし込む。お兼が氣を利かせて里芋の煮たのと味附海苔とを棚から探し出して呉れる。その海苔は遙々東京から友人が送つて呉れたものだ。
二三杯立續けに一人で飮んで、さて杯を片手にさし出して皆を見※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]しながら、
「誰か受けて呉んないかな!」
と笑つてると、母も笑つて、
「千代坊、お前兄さんの御對手をしな。」
「マアー」
と言つて、例の媚びるやうな耻しさうな笑ひかたをして、母と私と杯とを活々した輝く瞳で等分に見る。
「ぢや一杯、是非!」
私はもう醉つたのかも知れない、大變元氣が出て面白い。強《あなが》ちに辭《いな》みもせず千代は私の杯を受取る。無地の大きなもので父にも私にも大の氣に入りの杯である。お兼はそれになみ/\と酌《つ》いだ。
見て居ると、苦《にが》さ
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