。首をつき出して仰いで見ても空は依然として眞闇だ。星のみが飛び/\に著く光つてる。
「戲談《じやうだん》ぢやない、まだ眞暗ぢやないか!」
「もう出なさりませう。」
と、ゆる/\力無く言ひながら立上つて、爐の方に行つて、妹の下手に音無《おとな》しく坐る。氣が附けば浴衣はお揃ひだ、彼家《あすこ》にしては珍らしいことをしたものだと私は不思議に思つた。
「厭だよ姉さんは、もつと離れて坐んなれ!」
と、妹は自身の膝を揃へながら、突慳貪《つつけんどん》に姉にいふ。
すると母が引取つて、
「お前が此方においでよ、斯んなに空いてるぢやないか。」
と、上から被つてゐる自身の夜着の裾を引寄せて妹に言ふ。千代は心もちその方にゐざり寄つた。お兼は母の意を受けて鑵子《くわんす》に水をさし、薪を添へた。
「姉さんの方が餘程小さいね。」
と兩人を見比べて私がいふ。
妹は姉を見返つてたゞ笑つてる。
「千代坊は精出して働くもんだから。」
と、姉は愼しやかに私に返事して、
「お土産を私にも難有《ありがた》う御座んした。」
と、これもしとやかに兩手をつく。
「ハヽヽヽヽヽ、これもお氣に入りやんしたらうね。」
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