相な、肉附もよく色の美しい娘で、勿論《もちろん》爭はれぬ粗野な風情《ふぜい》は附纒うて居るものゝ、この村内では先づ一二位の容色好《きりやうよ》しと稱へられて居るのであらう。そんな噂も聞いて居た。
「ア、ほんに、お土産を難有《ありがた》う御座んした。」
 と、丁寧に頭を下ぐる。
「氣に入つたかい?」
「入りやんしたとむ!」
 と、ツイ逸《はず》んで地方訛《なまり》を使つたので遽てゝ紅くなる。
「ハヽヽヽヽヽ、左樣か、それは可《よ》かつた、左樣か、入りやんしたか、ハヽヽヽ。」
 埓《らち》もなく笑ふので母も笑ひ、お兼も笑ふ。と、母が、
「マア、米坊よ、お前どうしたのだ、そんな處に一人坊主で、……もつと此方においでよ。」
 私も氣がついて振向くと、なるほど姉の方は窓際に寄りつきりで、先刻から殆ど一言も發せずに居る。
「オ、然《さ》うだ、如何したんだね米ちやん、もつと此方に出ておいでよ、寒いだらう、其處は。」
「エー」
 と長い鈍い返事をして、
「お月さんが………」
 云ひ終らずにおいて身を起しかけて居る。
「お月さん? 然うか、十七夜さんだつたな」
 と、私は何心なく立つて窓の側に行つて見た
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