、それは可かつた、隨分久しぶりだつたね、たいへんな山ん中に引込んでるつてぢやないか。」
と、母の背後から私と向合ひの爐邊に來た妹の方を見ていふと、
「え、たいへんな山ん中!」
と、妙に力を入れて眉を寄せて、笑ひながら答へる。
休暇に歸つて來てから一寸逢ふことは逢うたのであつたが、その時は仕事着のまゝの汚い風であつたのに、今夜は白のあつさりした浴衣がけで、髮にも櫛の目が新しく、顏から唇の邊にも何やら少しづつ匂はせて居るので、珍らしいほど美しく可憐に見ゆる。山家の娘でも矢張り年ごろになれば爭はれぬ處女《むすめ》らしい色香は匂ひ出て來るものだ。それに兩人ともツイ二三年前までは私の母が引取つてこの家で育てゝ居たので他の山家の娘連中同樣の賤しい風采はつゆほども無かつた。
「淋しいだらう!」
「え、だけど妾《あたし》なんか馴れ切つてゐるけれど……兄《あん》さんは淋しいで御ざんせう!」
「ウム、まるで死んでるやうだ。」
「マア、斯んな村に居て!」
と仰山《ぎやうさん》に驚いて、
「だけれど、東京から歸つて來なさつたんだからねえ!」
と何となく媚びるやうな瞳附で私の眼もとを見詰むる。さも丈夫
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