て居る。
「如何したの?」
 と、矢張り微笑んだまゝで母と兩人の顏を見比べて私は聲をかけた。默つたまゝで笑つてゐる。誰も返事をせぬ。
「たいへん今夜は遲かつたね。」
 と、母がそれには答へず例の弱い聲で、
「いま喚《よ》んでおいでと言つてた所だつた。」
 と、續くる。
「ナニ、一寸面白い本《もの》を讀んでたものだつたから……え、如何したの、遊びかい、用事かい?」
 と兩人を見交して言つてみる。
「え、遊び!」
 と、千代が母の陰から笑顏でいふ。
「珍しい事だ、兩人揃つて。」
 と、私。
「兩人ともお盆に來なかつたものだから……それにお前今夜は十七夜さんだよ。」
 と、私に言つておいて、
「もう可いよ、御苦勞樣、もういゝよ眞實《ほんとう》に!」
 と、肩を着物に入れながら、強ひて千代を斷つて、母は火をなほし始めた。
 兩人は一歳違ひの姉妹で、私とは再從妹《またいとこ》になつて居る。姉のお米といふのは私より二歳下の今年二十一歳。同じ村内に住んでゐるのではあるが、兩人の居る所から此家までは一里近くも人離れのした峠を越さねばならぬので、夜間《よる》などやつて來るのは珍しい方であつた。
「さうか
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