ゐしや》とも教訓とも何とも附かぬ自分の言葉を酷《ひど》く耻しく覺えた。自己のもとの身分とか又は一家の再興とかいふことに對しては少女ながらに非常に烈しく心を燃やしてゐた彼女にとつては、今度の事件はたゞ單に普通の處女《むすめ》が老人の餌食《ゑじき》になるといふよりも、更に一種烈しい苦痛であるに相違ない。彼女は痛《ひど》く才の勝つた女で、屹度《きつと》一生のうちに郷里の人の驚くやうな女になつてやらねば、とは束の間も彼女の胸に斷えたことのない祈願であつた。才といつた所で、もとより斯んな山の奧で育てられた小娘のことなので、世に謂ふ小才の利くといふ位のものに過ぎなかつた。然し兎に角僅か十七八歳の娘としては不相應な才能を有《も》つてゐるのは事實で、それは附近の若衆連を操縱する上に於ても著しく表はれてゐるらしい。一つは田舍での器量好《きりやうよし》であるがためか隨分とその途の情も強い方で現に休暇ごとに歸つて來る私を捉へて、表《あら》はには云ひよらずとも掬んで呉れがしの嬌態をば絶えずあり/\と使つてゐた。然しあまりに私が素知らぬ振をしてゐるので、さすがに斷念《あきら》めたものか、昨年あたりからはその事も
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