それに應《こた》へることが出來なかつた。
兩人の家はもと十五六里距つた城下の士族であつたのだが、その祖父の代にこの村に全家移住して、立派な暮しを立てゝゐた。が、祖父が亡くなると、あとはその父の無謀な野心のために折角の家畑山林悉く他手《ひとで》に渡つて、二人の娘を私の家に捨てゝおいたまま父はその頃の流行であつた臺灣の方に逐電したのであつた。そして二三年前飄然と病み衰へた身躰《からだ》を蹌踉《よろぼ》はせてまた村に歸つて來て、そして臺灣で知合になつたとかいふ四國者の何とかいう聾《つんぼ》の老爺を連れて來て、四邊の山林から樟腦を作る楠と紙を製《つく》るに用ふる糊の原料である空木《うつぎ》の木とを採伐することに着手した。それで村里からは一二里も引籠つた所に小屋懸けして、私の家で從順に生長《おほき》くなつてゐた兩人の娘まで引張り出して行つて、その事を手傳はしてゐた。所が近來その老爺といふのが二人の娘に五月蠅《うるさ》く附き纒ふやうになつて、特に美しい妹の方には大熱心で、例の借金を最上の武器として、その上尚ほその父親を金で釣り込んだうへ、二人一緒になつて火のやうに攻め立てた。それでどうか逃れやう
前へ
次へ
全25ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
若山 牧水 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング