はなからうかと一寸の隙《すき》を見ては私の母に泣きついて來たのであつた相なが、同じやうに衰頽《すゐたい》して來て居る私の家ではなか/\その借金を拂ひもならず、まア/\と當《あて》もなく慰めてゐたのであつたといふが、いよ/\今夜限りで明日の晩から妹は老爺の小屋に連れ込まれねばならぬことになつたのだ相な。
それでも既《も》う今夜はあの娘も斷念《あきら》めたと見えて、それを話し出した時には流石《さすが》に泣いてゐたけれども、平常のやうに父親の惡口も言はず拗《す》ねもせずあの通りに元氣よくして見せて呉れるので、それを見ると却つて可哀相でと、母は切りに水洟《みづばな》を拭いてゐる。三人とも默然として圍爐裡の火に對して居ると、やがて兩人の足音がして襖が明いた。耐へかねたやうに妹は笑ひ出して、
「伯父さんが、ホヽヽヽヽヽ姉さんを、兄《あん》さんと間違へて、ホヽヽヽヽヽ。」
蓮葉に立ち乍ら笑つて、尚ほそのあとを云はうとしたらしかつたが、直ぐ自身の事が噂せられた後だと、吾等《わたしら》の素振《そぶり》を見て覺つたらしく、笑ふのを半ばではたと止めて、無言にもとの場所に坐つた。私はそれを見ると耐らなく可
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