と吹き込んで來る。
母は氣附いたやうに、兩人の娘に中の間に寢るか次ぎの座敷に寢るかと訊く。何處でもと姉。中の間に一緒がいゝ、二人だけ別に寢るのは淋しいからと妹が主張する。では押入から蒲團を出して、お前達がいゝやうに布くがいゝとのことで、兩人は床とりに座敷に行つた。それを見送り終つて、
「あの事で來たんでせう。」
と低聲で私は母に訊いた。
「ア、左樣よ。」
「如何なりました、どうしても千代が行くんですか。」
「どうも左樣でなくてはあの老爺が承知をせんさうだ。あの娘はまたどうでも厭だと言つて、姉に代れとまで拗《す》ねてるんだけど、……姉はまたどうでもいゝツて言つてるんけど……どうしても千代でなくては聽かんと言つてる相だ。因業《いんごふ》老爺《おやぢ》さねえ。」
「まるで※[#「けものへん+非」、30−11]々《ひひ》だ。そんな奴だから、若い女でさへあれば誰だツていゝんでせう。誰か他に代理はありませんかねえ、村の娘で。」
「だつてお前、左樣なるとまた第一金だらう。あの通りの欲張りだから、とても取れさうにない借金の代りにこそ千代を/\と言ひ張るのだから。」
如何にも道理な話で、私にはもう
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