んで御無用、途方もなく面白く喋つた。
聽手は勿論頭から醉はされて了つて、母とお兼は既う二三度も繰返して聽かされて居るにも係らず矢張り面白いらしく熱心に耳を傾けて居る。特に最初から私の話對手であつた千代などは全然當てられて、例の瞳はいよいよ輝いて、ともすれば壞《くづ》れやうとする膝を掻き合はせては少しづつ身を進ませて、汗を拭いて、一生懸命になつて聽き入つて居る。お米の方はさすがにこの娘の性質で、同じ面白相に聽いては居たやうだが、相變らず默然とした沈んだ風で、見やうによつては虚心《うつかり》してゐるものゝやうにも見ゆる。顏も蒼白くて、鈍く大きくそして何となく奧の深かり相な瞳のいろ。眼瞼をば時々重も相に開いたり閉ぢたりしてゐる。山家の夜の更けて行く灯の中に斯うしてこの娘が默然として坐つてゐるのに氣が附くと妙に一種の寂しい思ひがして、意味深い謎《なぞ》でもかけられたやうな氣味を感ぜずには居られない。
語り終つて私は烈しく疲勞を覺えた。聽いて居る人もホツとしたさまで、一時に四邊《あたり》がしんとなる。僅かの薪はもう殆ど燃え盡きて居て、洋燈は切りに滋々《じじ》と鳴つて窓からは冷い山風がみつしり
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