めんの草野原である。この野原を見るには足柄《あしがら》連山のうちの乙女峠、または長尾峠からがいゝ。この野の中に御殿場から印野《いんの》、須山《すやま》、佐野《さの》などいふ小さな部落が散在してゐるが、いづれもその間二里三里四里あまりの草の野を越えて通はねばならぬ。
富士のやゝ西に面した裾野はまたいちめんの灌木林である。そしてその北側はみつちり茂つた密林となつてゐる。いはゆる青木が原の樹海がそれである。
八ヶ岳の甲州路の廣大な裾野を念場が原といふ。方八里といはれてゐるこの原を越えてゆくと信州路に入る。そして其處に展開せられた高原を野邊山が原といふ。
野邊山が原から御牧が原を横切つてゆくと淺間の裾野に出る。追分、沓掛《くつかけ》、輕井澤あたりの南に面したあたりもいゝが本統に高原らしい荒涼さを持つてゐるのはその裏山にあたる上州路の六里が原である。これはまた打ち渡した芒《すすき》の原で、二抱へ三抱への楢《なら》の木がところ/″\に立枯になつてゐる。富士の大野原は明るくやはらかく、この六里が原は見るからに手ざはり荒く近づき難い。
阿蘇山の太古の噴火口の跡だつたといふ平原は今は一郡か二郡か
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