も目に見え、思ひ切り踵の高い靴のひゞきも聞えて來る。芒がなびき、楢の葉が冬枯れて風に鳴る。
これらの野原がすべて火山に縁のあるのも私には面白い。武藏野はもと/\富士山の灰から出來たのであるさうな。
人は彼の樹木の地に生えてゐる靜けさをよく知つてゐるであらうか。ことに時間を知らず年代を超越した樣な大きな古木の立つてゐる姿の靜けさを。
獨り靜かに立つてゐる姿もいゝ。次から次と押し竝んで茂つてゐる森林の靜けさ美しさも私を醉はすものである。
自然界のもろ/\の姿をおもふ時、私はおほく常に靜けさを感ずる。なつかしい靜寂《せいじやく》を覺ゆる。中で最も親しみ深いそれを感ずるのは樹木を見る時である。また、森林を見、且つおもふ時である。
樹木の持つ靜けさには何やら明るいところがある。柔かさがある。あたゝかさがある。
森となるとやゝ其處に冷たい影を落して來る。そして一層その靜けさが深んで來る。森の中でのみは私は本統に遠慮なく心ゆくばかりに自分の兩眼を見開き、且つ瞑づる事が出來る樣である。山岳を仰ぐ時、溪谷を瞰下《みおろ》す時に同じくそれを覺えないではないけれども。
森をおもふと、かすかに
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