/\、もろ/\の鳥の聲が私の耳にひゞいて來る。
自分の好むところに執して私はおほく山のことをのみ言うて來た。
海も嫌ひではない。あの青やかな、大きな海。うねり浪だち、飛沫がとぶ。大洋、入江、海峽、島、岬、そして其處此處の古い港から新しい港。
然し、いまそれに就いて書き始めるといかにも附けたりの樣に聞える虞《おそれ》がある。
庭さきに立つ一本の樹に向つてゐても、春、夏、秋、冬の移り變りの如何ばかり微妙であるかは知り得べき筈である。
況《ま》してや其處に田があり畑があり、野あり大海がある。頭の上には常に大きな空がある。
それでゐて人はおほく自然界に於けるこの四季の移り變りのこまかな心持や感覺やを知らずに過して居る樣である。僅かに暑い寒いで、着物のうつりかへで寧ろ概念的に知り得るのみの樣である。
何といふ不幸なことであらう。
一寸にも足らぬ一本の草が芽を出し、伸び、咲き、稔《みの》り、枯れ、やがて朽ちて地上から影を消す。そしてまた暖い春が來ると其處に青やかな生命の芽を見する。いつの間にか一本は二本になり三本になつてゐる。
砂糖の壜に何やら黒いものが動いてゐる。
『オヽ、も
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