をあけすてたまゝ、屋内には早や一個の人影をも留めてゐなかつた。そしてずつと山の手寄りの田圃の間に一かたまりに集つて海面に見入つてゐるのが見えた。
部落を通り拔けて舊道を登りにかゝると、其處には木立のたちこんだ間に、幾つかの龜裂の出來てゐるのが見えた。荒れ古びた小徑の草むらの中には先から先と大小の石塊が眞新しく轉げ落ちてゐた。とても徐歩する事が出來ず、小走りに走つてその山蔭の村立保へと降りて行つた。
此處の龜裂は古宇より更にひどかつた。か細い女の身で大きな箪笥を横背負に背負ひ込んで山手の方へ青田中を急いでゐる者や、米俵を引つ擔いで走つてゐる若者などが入り亂れて見えてゐた。海岸の高みには老人たちが五六人額をあつめて遠くの海上を眺めてゐた。
郵便局に行くと一人の老人を廣い庭の眞中に寢かして、二三人の若い女が手に/\傘を持つてその周圍に日を遮つてゐた。病人らしかつた。案の如く電報電話とも不通であつた。心休めに、若し通ずる樣になつたら早速これを頼みますと頼信紙を頼んでおいて、二人はまた山の舊道を越えた。
古宇の村はづれにかゝると、土地の青年團の一人がわざ/\我々の方に歩いて來て、
『今夜
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