、だから餘計に間が拔けて見えます)餌を突きつけて釣るのですからわけはありません。但し此奴釣りあげてから厄介で、私などの細指をば唯だの一噛みで噛み切らうといふ鋭い齒を持つてゐるので、鉤《はり》をはづすが大難澁、私など大抵一匹ごとに鉤《はり》を切つて新たなのを用ゐました。大きいのになると幅二三寸長さ二三尺のものがゐました。形美ならず、味また不美。

 思ひ出して來るといろ/\ありますが、もう一つ、毎日の夕方の事を書いてこれを終りませう。ア、朝起きてから顏も洗はずに、まだ日のさゝぬうす黒い海面へ庭さきからざぶりと飛び込む愉快さをも書き落してゐましたね。
 この村から毎日早朝沼津へ向けて出る發動機船があります。そしてそれは午後の四時、五時の頃に村へ歸つて來るのです。私はいち速くこの船の人たちと懇意になつて、いろ/\と便宜を得ました。そんな佗しい漁村の、そんな佗しい宿屋のことで、何も御馳走がありません。殆んど自炊をしてゐる形で私たちは其處の一月を送つたのですが、その食料品をば全てこの發動機船に頼んで沼津から取り寄せたのです。そればかりでなく、沼津の留守宅から※[#「廴+囘」、第4水準2−12−1
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