1]送して來る郵便や新聞等も途中一二箇所の郵便局の手を經るよりもこの船に頼んで持つて來て貰ふ方がずつと速かつたのです。
夕方の四時近く、いつとなく夕涼が動き出して西日を受けた入江の海の小波が白々と輝き出した頃、泳ぎに疲れた二階の一家族は誰かれとなく一樣に沖の方に眼を注ぎます。
『來た、來た、壯快丸が見えますよ、父さん!』
兄が斯う叫びます。
『どれ、どれ、……うゝん、あれは常盤丸だよ、壯快丸ではないよ。』
『嘘《うそ》言つてらア、御らんよ、ぺんきが白ぢやァないか。』
『ア、さうだ、今日も兄さんに先に見附けられた、つまんないなア。』
と妹が呟きます。
大抵親子二三人してその壯快丸の着く所へ出懸けます。そして野菜や(海岸には大抵何處でもこれが少ない)肉や郵便物を受取つてめい/\に持つて歸ります。歸つてから兄は水汲み、妻は七輪、父親はまた手網を持つて岸近く浮けてある生簀《いけす》に釣り溜めておいた魚をすくひに泳ぎ出すのです。
八月が終りかけると母と子供とは學校があるので家の方に歸り去り、父親一人は釣に未練を殘してもう二三日とその宿に殘りましたが、越えて九月一日の正午、例の大地震を食
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