す。かさご、あかぎ、ごんずい、くしろ、おこぜ、海鰻、その他なほ數種、幾ら聞いても直ぐ忘れてしまふ樣な奇怪な名を持つた魚たちが四邊《あたり》の海で釣れました。餌はしこ[#「しこ」に傍点]、またその一族のはま何とかいふさより[#「さより」に傍点]に似た細身の魚を最上とし、それが間に合はずば大方の魚の切肉《きりみ》、即ち共餌《ともえ》ででも釣れるのです。岡からも釣れますが、どうしても船です。一體に此處の入江は入江としては非常に深く、ことに岸から直ぐずつと深く切れ込んでゐる深みが多いのです。その深み――所によれば二三十尋に及びました――に舷から絲を垂れて釣るのです。
 技巧は簡單で、舷に掌を置き、そして親指と人差指との間に持つて垂れた釣絲の感觸によつて魚の寄りを知り、やがて程を見て手速く船の中に卷き上ぐるのです。唯だ絲の降りてゐる海底が岩石原であるため、馴れないうちはよく鉤《はり》をそれに引つ懸けました。宿の主人が名人とやらで、それに教はつて釣り始めたのですが、三度四度と行くうちにいつか主人より私の方が餘計釣る樣になりました。親爺《おやぢ》負惜しんで曰く、
『おめえたちは指がびるつこいせえに追
前へ 次へ
全11ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
若山 牧水 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング