つてゐるのでした。ほかにまた、これは少々厄介者でしたが海丹《うに》がゐました。これも上げ汐につれずつと海岸沿ひに一列になつて押し寄せて來るのです。例の栗の毬《いが》の形で、いつ動くとなくむんづ/\とやつて來るのです。見てゐれば可憐ですけれど、泳ぎの時に若し誤つて此奴を踏まうなら、彼は忽ちその黒紫の毬を足裏の肉深く刺し通すのです。拔かうとすれば折れて殘り、やがてじく/\と痛み出します。僅に脱脂綿に酢を含ませて局部にあて、痛みの去るのを待つほかはないのです。いゝことに、此奴案外に神經質と見え、泳ぎの場所近くやつて來たと見れば宿から物乾竿を持ち出してその一群の中の五つ六つを突きつぶすのです。すると四邊四五間四方位ゐに群れてゐた連中はいつ動くとなくまた何處へともなく逃げ隱れて行くのです。そして少なくとも一兩日の間は其處に姿を見せませんでした。

 魚の話のついでに釣の事を申しませう。
 私の釣りに行つたのは多く磯魚でした。土地では根魚と呼んでゐます。海底が磯になつてゐる所即ち砂でなくて石や岩の重疊した樣な場所にのみ居る魚の總稱です。味は一體に大味ですが、色や形には誠に見ごとなのゝ多いのが特色で
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