いろいろの魚の姿がよく見えました。細長い姿のさより[#「さより」に傍点]やうぐい[#「うぐい」に傍点]はその群までも細長く續いて、折れつ伸びつ、ちよこ/\と泳いで行き、黒鯛はおほく獨りぽつちでぼんやりとその大きな體を浮かせ、何か事があるとぴん[#「ぴん」に傍点]と打たれたやうにかき沈んで忽ち何處へやら消え去りました。折々雨の降り出したかの樣にぴよん/\ぴよん/\こまやかな音を立てゝ水面に跳ねあがり、それが朝日か夕日かを受けて居れば、青やかな銀色に輝くのはしこ[#「しこ」に傍点]の密群でした。若しこの大群がやゝ遠くを過ぐる時は、海面が急にうす黝《ぐろ》く皺ばむのでした。その他、名も知らぬ魚の族がいろいろの色や形で我等の面前に現はれました。中に一つ、土地では海金魚とか言つてゐましたが、樫の葉くらゐの大きさで、それこそ若葉の日に透いた樣な眞みどりの魚が始終其處の大きな岩の蔭に泳いでゐました。二三疋から五六疋どまりの群で引汐の時には見えなくなり、上げ汐となればきまつてその岩の蔭にやつて來ました。これは六つに九つの姉妹の一番の仲好しで、兩人競爭してこの眞みどりの着物をつけた友だちの現はれるのを待
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