でした。
『これは素敵だ、早速此處にきめませう。』
二階に上るや否やさう言つて、坐りもやらずに、二つの部屋をぐる/\と私は※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つて歩きました。階下の部屋も欲しかつたのですが、折々※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つて來る常客などのために其處だけは空けておきたいとのことで、諦めねばなりませんでした。
『イヤ、二階だけで澤山だ、そちらを子供部屋にして、此處に自分の机を置いて……』
その夜一泊、翌朝早くの船で沼津へ歸る筈でしたが、折よく降り出した雨をかこつけにもう一日滯在することにしました。そして雨に煙つて居る靜かな入江の海を見て何をすることもなく遊んで居りますと、丁度二階の眞下の海に沿うた小徑を三人の女が何やら眞赤な木の實らしいものの入つた籠を重々と背負つて通るのが眼にとまりました。木の實の上は瑞々しい[#「瑞々しい」は底本では「端々しい」]小枝の青葉が置かれ、それに雨が降りかゝつてをりました。
『山桃!』
さう思ふと惶てゝ私は彼等を呼留めました。
そして中の一人から大きな笊《ざる》いつぱいその珍しい果物を買ひとりました。聞けばこの近
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