かぬ、追つ附け娘たちが麓から登つて來るからそしたら直ぐ行つて問合せませう、まア旦那はそれまで其處らに御參詣をなさつてゐたらいいだらうといふ思ひがけない深切な話である。私は喜んだ、それが出來たらどれだけ仕合せだか分らない。是非一つ骨折つて呉れる樣にと頼み込んで、サテ改めて小屋の中を見※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]すと駄菓子に夏蜜柑煙草などが一通り店さきに並べてあつて、奧には土間の側に二疊か三疊ほどの疊が敷いてあるばかりだ。お爺さんはいつも一人きり此處にゐるのか、ときくと、夜は年中一人だが、晝になると麓から女房と娘とが登つて來る、と言ひながら、ほんの隱居爲事に斯んなことをして居るが馴れて見れば結局この方が氣樂でいいと笑つてゐる。小屋のうしろは直ぐ深い大きな溪で、いつの間にか此處らに薄らいだ霧がその溪いつぱいに密雲となつて眞白に流れ込んでゐる。空にもいくらか青いところが見えて來た。では一※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]りして來るから何卒お頼みすると言ひおいて私は茶店を出た。
[#ここで字下げ終わり]
 その頼みは叶つたのであつた。叶つて私の泊る事になつた寺は殆んど廢寺に
前へ 次へ
全13ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
若山 牧水 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング