りで、サテ三人して圍爐裡を圍んでゆつくりと飮み始めた。が、矢張り爺さんたちの方が先に醉つて、私は空しく二人の醉ぶりを見て居る樣なことになつた。そして口も利けなくなつた二人の老爺が、よれつもつれつして醉つてゐるのを見てゐると、樂しいとも悲しいとも知れぬ感じが身に湧いて、私はたび/\泣笑ひをしながら調子を合せてゐた。やがて一人は全く醉ひつぶれ、一人は剛情にも是非茶屋まで歸るといふのだが、脚がきかぬので私はそれを肩にして送つて行つた。さうして愈々別れる時、もうこれで旦那とも一生のお別れだらうが、と言はれてたうとう私も涙を落してしまつた。
[#ここで字下げ終わり]
その峠茶屋の爺さんが即ち今度金婚式を擧げた粟田翁であるのだ。その時、山から京都に降りると其處の友だちが寄つて私のために宴會を催して呉れた。その席上で私は山の二人の老爺のことを話した。するとその中の二三人が其後山に登つてわざ/\茶屋に寄り、斯く/\であつたさうだナといふ話をした。へええ、さういふ人であつたのかと云つて爺さんひどく驚いたといふことをその人から書いてよこした。それから程なく、古い短册帖に添へて、これは昔から自分の家に傳は
前へ
次へ
全13ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
若山 牧水 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング