かな大道を伸び/\として歩き出した。即ち其處は五十三次のうち沼津の次に當る原の宿であつたのだ。
 一筋町の細長い其處を離れると、いよ/\廣重模樣の松並木が道の兩側に起つて來た。並木を通して右手眞上には富士、左には今までと反對に桃畑を前にした松原が見えてゐる。道のよさに歩みも早く、いつか鈴川近くなつたが、おほかた田子の浦はこの邊に當ると聞いてゐたので道を左に折れ、この邊よほど木立の疎くなつた松原を拔けて濱へ出て見た。濱の砂は先程休んだあたりの小石原と違つてこまかい眞砂であつた。そして濱はずつと廣くなつてつぎ/\に低い砂丘が起伏して居る。松原つづきの小松が極めてとび/\にそれらの砂丘に散らばり、所によつてはそれとも見えぬ痩麥が矢張り畝《うね》をなして植ゑられてゐた。一帶の感じが何となく荒涼としてゐて、田子の浦といふ物優しい名の聯想とは全く異つてゐるのを感じた。振向くと見馴れた富士の姿も沼津あたりとは違つて距離も近く高さも高く仰がるゝのであつた。傍へに富士川があり、前にこの山を仰ぎ背後に駿河灣を置いた眺めは太古にあつては一層雄大なものであつたに相違ないと思はれた。
 思はず長い時間を其處で費
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