も砂氣のない拳大の小石ばかりが揃つてゐる。初めは快く歩き出したものゝ、ものゝ一里も歩いて來ると早や草鞋《わらぢ》の裏が痛くなつた。『濱へ出て見ようか』と言ひながら松原を左に拔けて、白々とした荒濱に出て見ると駿河灣の輝きが眼の前にあつた。麗かな日ざしに照らされた海面からは靄とも霞ともつかぬものがいちめんに片靡きに湧き立つて、左手向うに突き出てゐる伊豆半島の根にかけうつすらと棚引いてゐる。それと向ひ合ふ筈の御前崎《おまへざき》のあたりは全く霞み果てゝ影も見えず、僅かに手近の三保の松原が波の光の上に薄墨色に浮んで見える。ちら/\と寄する小波も全くこんな大海の岸であるとは思はれぬ凪である。見てゐる瞳は自づと瞑《と》ざされ吐く呼吸は自づと長く、いつか長々と身體をも横たへたい氣持となる。
 また松原の中の小徑に歸つて歩き出したが、桃の花は相變らず其處に美しく見えてゐるが、兎に角に痛い足の裏である。なまなかにいま投げ出して休んだだけ、一層に痛みを感じ出して來た。終《つひ》に我を折つて桃畑の向うに町の家並の見え出したを幸ひにそちらへ向けて松原から出てしまつた。そしてその町の取つ着きから平坦を極めた廣や
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