る金主がついていよ/\其の雜誌を再興する事になつた。なるにはなつたが、なかなか思ふ樣に成績が擧らず、小生の受くる報酬なども一向に定つてゐなかつた。それに妙に小生の家には來客が多かつた。毎日五人か十人、而も一向にこちらの事にはお察しのつかぬ人たちだつた。小生自身もまた前の頽廢期間の惰力から逃れ得ずに相手さへあれば二日でも三日でも酒に浸つて醒めなかつた。從つて雜誌の方の仕事も進まず金主との間も面白くない、間に在つて唯だもう困るのは細君ばかりであつた。初めに言つた彼女の記憶といふのは概ねこの大塚窪町時代に係つてゐるのも無理ならぬ話である。幸にツイ近所に同じ樣に貧しい友人が住んでゐた。中の一人の若い畫工などは一圓でも二圓でも金が手に入れば必ず先づその一割を以て鹽を買ひ、五分を以て胡麻を買ひ、殘り八割五分の金で米を買つて置く。米と胡麻鹽とさへあれば人間決して死なゝいといふのがこの人の言分であつた。そしてさう言ひながら我等の間には明朝の米今夜の米の貸借が行はれてゐたのである。斯うした貧しい同志が相隣つて住んでゐた事はお互ひにとつて少なからぬ力であらねばならなかつた。
細君はたうとう病氣になつた。
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