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あゝした落ちつかぬ朝夕を送つてゐながら斯ういふ小綺麗な歌ばかりを詠んでゐたといふことが今から見るといかにも滑稽の感を誘ふのである。
サテ、斯うして順々に書いてゐたのでは結局一種の自叙傳を書くことになつてゆく。間を端折つて結婚後の事を少し書き添へておきたい。すべて貧乏史の續きならぬはないが、多少その間に色彩の變化がある樣であるからである。
私等が結婚したのは小生の二十八歳の時であつた。當時彼女は新宿の女郎屋の間に在る酒屋の二階を借りて、其處で遊女たちの着物を縫つて身を立てゝゐたので取りあへず其處に同棲する事になつた。謂はゞ亭主が女房の許に寄食した形であつた。小生は小生でその頃休刊してゐた以前からの雜誌『創作』を自分の手で復活經營したく頻りと金を集めることに腐心してゐたのであつた。折も折、其處へ小生の郷里から父危篤の電報が來て九州の日向まで歸らねばならぬことになつた。病氣は中風で次第に永引き、終《つひ》には其儘《そのまま》眠つてしまつた。かた/″\で約一年ばかりも郷里に留り、大正二年六月上京して小石川の大塚窪町にさゝやかな一戸を構へた。その時はもう長男が生れてゐた。
其處で或
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