しい制限の無い者にのみ與へられた餘徳であるか知れぬ。雨、雪など、庭の草木をうるほしてゐる朝はひとしほである。
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時をおき老樹《おいき》のしづく落つるごと靜けき酒は朝にこそあれ
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 普通は晩酌を稱ふるが、これはともすれば習慣的になりがちで、味は薄い。私は寧ろ深夜の獨酌を愛する。
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ひしと戸をさし固むべき時の來て夜半を樂しくとりいだす酒
夜爲事の後の机に置きて酌ぐウヰスキーのコプに蚊を入るるなかれ
疲れ果て眠りかねつつ夜半に酌ぐこのウヰスキーは鼻を燒くなり
鐵瓶のふちに枕しねむたげに徳利かたむくいざわれも寢む

醉ひ果てては世に憎きもの一もなしほとほと我もまたありやなし
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 一刻も自分を忘るゝ事の出來ぬ自己主義の、延《ひ》いて其處から出た現實主義物質主義に凝り固まつてゐる阿米利加に禁酒令の布《し》かれたは故ある哉である。

 洋酒日本酒、とり/″\に味を持つて居るが、本統におちついて飮むには日本酒がよい。

 サテ、此處まで書いて來るともう與へられた行數が盡きた。
 初め、酒の讚を書けといふ手紙を見
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