ゆく。乾いてゐた心はうるほひ、弱つてゐた心は蘇《よみがへ》り、散らばつてゐた心は次第に一つに纒つて來る。
私は獨りして飮むことを愛する。
かの宴會などといふ場合は多くたゞ酒は利用せられてゐるのみで、酒そのものを味はひ樂しむといふことは出來難い。
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白玉の齒にしみとほる秋の夜の酒は靜かに飮むべかりけり
酒飮めば心なごみてなみだのみかなしく頬を流るるは何《な》ぞ
かんがへて飮みはじめたる一合の二合の酒の夏のゆふぐれ
われとわが惱める魂《たま》の黒髮を撫づるとごとく酒は飮むなり
酒飮めば涙ながるるならはしのそれも獨りの時にかぎれり
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然し、心の合うた友だちなどと相會うて杯を擧ぐる時の心持も亦た難有《ありがた》いものである。
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いざいざと友に盃すすめつつ泣かまほしかり醉はむぞ今夜
語らむにあまり久しく別れゐし我等なりけりいざ酒酌まむ
汝《な》が顏の醉ひしよろしみ飮め飮めと強ふるこの酒などかは飮まぬ
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朝の酒の味はまた格別のものであるが、これは然し我等浪人者の、時間にも爲事の上にもさまでに嚴
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