た時、我知らず私は苦笑した。なぜ苦笑したか。
要するに私など、自分の好むものにいつ知らず救はれ難く溺れてゐた觀がある。朝飯晝飯の膳にウヰスキーかビールを、夕飯の膳にはまた改めていはゆる晩酌を、といふ風に酒びたりになつてゐる者に果して眞實の酒の讚が書けるものだらうか。
いま一つ苦笑して苦笑の歌數首を書きつけこの稿を終る。
その一。
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一杯を思ひきりかねし酒ゆゑにけふも朝より醉ひ暮したり
なにものにか媚びてをらねばならぬ如き寂しさ故に飮めるならじか
醉ひぬればさめゆく時の寂しさに追はれ追はれて飮めるならじか
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その二。これは五六年前、腎臟を病み醫者より絶對の禁酒を命ぜられた時の作。
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酒やめてかはりに何か樂しめといふ醫者が面《つら》に鼻あぐらかけり
彼しかもいのち惜しきかかしこみて酒をやめむと下思ふらしき
癖にこそ酒は飮むなれこの癖とやめむ易しと妻宣らすなり
宣りたまふ御言《みこと》かしこしさもあれとやめむとは思へ酒やめがたし
酒やめむそれはともあれ永き日のゆふぐれごろにならば何とせむ
朝酒はやめむ晝酒せんもなし
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