らばそうめん。芋大根の類、寒い時なら湯豆腐、香のものもうまいものだ。土地々々の風味の出てゐるのはこの香の物が一番の樣に思ふがどうだらう。
田舍に生れ、貧乏で育つて來た故、餘り眼ざましい御馳走を竝べられると膽が冷えて、食慾を失ふおそれがある。まことに勿體《もつたい》ない。ないがしろにされるのは無論いやだが、徒らに氣の毒なおもひをさせられるのも心苦しい。
飯の時には炊きたてのに、なま卵があれば結構である。それに朝ならば味噌汁。
その二
女人の歌。
『どうも女流の歌をば多く採りすぎていかん、もう少し削らうか。』
と私が言へば、そばにゐた人のいふ。
『およしなさいよ、女の人のさかりは短いんだから。』
いやさかと萬歳。
『十分ばかりお話がしたいが、いま、おひまだらうか。』
といふ使が隣家から來た。
ちやうど縁側に出て子供と遊んでゐたので、
『いゝや、ひまです。』
とそのまゝ私の方から隣家へ出かけて行つた、隣家とは後備陸軍少將渡邊翁の邸の事である。土地の名望家として聞え、沼津ではたゞ「閣下」とだけで通つてゐる。私を訪ぬるために沼津驛で下車した人が若し驛前の俥に乘る
前へ
次へ
全22ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
若山 牧水 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング