はもう草刈時でもないが兎に角あそこまでは細い道がついてゐる、あそこまで登つて、そしてまア頂上まで行つたつもりになつて其處から降りて來るのだ、あれから先は路もないし、とても深い森でなか/\登れるわけのものでない、ムグラツトまで行つたにしても歸りは夜に入るが、兎に角麓の村まで出て來ればまたどうとでもなるだらう、と言ふのだ。
 兩人《ふたり》は顏を見合せたが、それでも水神樣にゆくよりその方が多少心を慰められる氣がしたので、若者に禮を言ひ捨てゝ急いでその森の中の枯草の野へ向けて足を速めた。それからは兩人とも急に眞劍にならざるを得なかつた。腹も空いたが大事をとつてムグラツトまでは辨當を開かぬ事とし、もう今までの無駄口も自づと消えて只だひたすらに急いだ。間もなく流石《さすが》に長かつただらだら登りも盡きて山らしい坂になつた。畑もなくなり、人影も見えなくなつた。ともすれば見失ひがちの小徑は水の涸れた谷をあちこちと横切つて多く笹の原の中を登つて行つた。そして程なく鬱蒼たる森林地に入り込んだ。
 裾野の廣いのに驚いたと同じく、この中腹からかけての森の大きく美しいのもまた私を驚かした。
 沼津あたりから見
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