の山であるが、サテ實際に登りかけて見ると今言つた通り、こちらからは一寸見に解らないだらしのない野原をいつまでも/\歩いてゆかねばならなかつたのだ。
幸に麥蒔時で、その廣大な裾野にそちこちと百姓が麓の里から登つて麥を蒔いてゐた。それでなくては到底何處が何處だか路などの解る野原ではないのであつた。百姓達はみんな我等二人の言ふのを聞いて一笑に付し去つた。今からなどとても/\峠まで行けるものではない、それよりも今から路を少し右にとつて、山の中腹にある水神さまにでも參つたがよいであらう、其處へならまだ行つて歸る時間もあらうし、若し、遲くなれば其處の堂守に頼んで泊めても貰へると言ふのだ。さう言はれると落膽もし癪《しやく》にもさはつた。殘念さうに私が返事もせずに山のいたゞきを望んで立つてゐるの見た彼等の中の一人の若者は――彼等は丁度晝飯を喰つてゐた――笑ひ/\立ち上つて來てその山の方を指ざしながら、それなら斯うしたらどうだ、ソレあの山の八合目にかけた森の中に土龍《もぐら》の形に似た枯草の野があるだらう、あれはこの麓の村から牛馬の飼料を刈りにゆく草場で、その形からこの邊ではムグラツトと呼んでゐる、今
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