樹木とその葉
四邊の山より富士を仰ぐ記
若山牧水
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)駿河《するが》なる
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから3字下げ]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)なか/\さう簡單に
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[#ここから3字下げ]
駿河《するが》なる沼津より見れば富士が嶺の前に垣なせる愛鷹《あしたか》の山
[#ここで字下げ終わり]
東海道線御殿場驛から五六里に亙る裾野を走り下つて三島驛に出る。そして海に近い平地を沼津から原驛へと走る間、汽車の右手の空におほらかにこの愛鷹山が仰がるる。謂《い》はば蒲鉾形《かまぼこがた》の、他奇ない山であるが、その峯の眞上に富士山が窺《のぞ》いてゐる。
いま私の借りて住んでゐる家からは先づ眞正面に愛鷹山が見え、その上に富士が仰がるゝ。富士といふと或る人々からは如何にも月並な、安瀬戸物か團扇《うちは》の繪にしかふさはない山の樣に言はれないでもないが、この沼津に移住して以來、毎日仰いで見てゐると、なか/\さう簡單に言ひのけられない複雜な微妙さを
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