け》によきものと三畝《みうね》がほどは芋も植ゑたり
もろこしの長き垂葉にいづくより來しとしもなき蛙宿れり
紫蘇《しそ》蓼《たで》のたぐひは黒き猫の子のひたひがほどの地《つち》に植ゑたり
青紫蘇のいまださかりをいつしかに冷やし豆腐にわが飽きにけり
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 みじか夜のあはれさも私の好きな一つである。春の夜、秋の夜、冬の夜、どこかすべてあくどいが、夏にはそれがない。香のけむりの立ち昇るにも似たはかなさがある。
 ことに私はその明けがたを愛する。眼が覺むれば枕もとの窓がほのかに明るい。時計を見れば四時まだ前、或は少し過ぎてゐる。立つて窓を開くと、かろやかに風が流れて、蚊がひそかに明るみへまつてゆく。
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夜ふかくもの書き居れば庭さきに鳴く夏蟲の聲のしたしさ
みじか夜のいつしか更けて此處ひとつあけたる窓に風の寄るなり
夜爲事《よしごと》のあとの机に置きて酌ぐウヰスキイのコプに蚊を入るなかれ
このペンをはや置きぬべし蜩の鳴き出でていま曉といふに
降《お》りたてば庭の小草のつゆけきにかへる子のとぶ夏のしののめ
みじか夜の明けやらぬ闇にかがまりてものの苗植うる人
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