つて烈しい失望や甲斐なき苦勞を味ふ事が少なくない。
然しそれも、『斯ういふ所へもう二度と出かけて來る事はあるまい、思ひ切つてもう少し行つて見よう。』といふ概念や感傷が常に先立つてゐるのを思ふと、われながらまたあはれにも思はれて來るのである。
今度の旅では幾つかの湖と、幾つかの高原と、同じ樣に幾つかの森林と、溪谷と、峰と、澤とを見、且つ越えて來た。順序よく行けば十日あれば※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]り得る範圍である。それにしてはよく計畫された旅であつた。私の十七日かゝつたのは例の貪慾癖《どんよくへき》と、信州路で三四日友人等と會談してゐたゝめであつた。
机の上に地圖をひろげて見てゐると、まだまだなか/\行つて見度い處が多い。いつも考へる事だが、斯うして見ると日本もなか/\廣大なものだ。どうか出來るならばせめてこの日本中の景色をでも殘る所なく貪り盡して後死にたいものだとしみ/″\思はざるを得ぬのである。
草鞋を穿いて歩く樣な旅行には無論幾多の困難が伴ふ。先づ宿屋の事である。次に飮食物の事である。
今度の旅でも私は二度、原つぱの中の一軒家に泊めて貰つた。二軒ともこの
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