すぐ歸れといふ電報が三通も來てゐた。ために豫定してゐた友人訪問をも燒跡見物をもすることもなくしてあたふたと歸つて來たのであつた。
この旅に要した日數十七日間、うち三日ほど休んだあとは毎日歩いてゐた。それも兩三囘、ほんの小部分づつ汽車に乘つたほか、全部草鞋の厄介になつたのであつた。
自宅に歸ると細君から苦情が出た、何日には何處に出るといふ風の豫定を作つておいて貰ふか毎日行く先々から電報でも打つて貰はぬことにはまさかの時に誠に困るといふのである。
もつともとも思ふが、私の方でも止むを得なかつた。たとへば千曲川の流域から荒川の流域に越ゆる間など、ほゞ二十里の間に郵便局といふものを見なかつたのだ。
また私は健脚家といふでなく、所謂《いはゆる》登山家でなく冒險家でもないので、あまり無理な旅をしたくない。出來るだけ自由に、氣持よく、自分の好む山河の眺めに眺め入り度いためにのみ出かけて行くので、行くさき/″\どんな所に出會ふか解らぬ間は、なか/\豫定など作れないのである。
それにしてもどうも私には旅を貪《むさぼ》りすぎる傾向があつていけない。行かでもの處へまで、われから強ひて出かけて行
前へ
次へ
全19ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
若山 牧水 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング