つた。渓をはさんだ山には黄葉《もみぢ》も深く、諸所に植ゑ込んだ大きな杉の林もあつた。細長い筏を流す人たちにも出会つた。ゆる/\と歩いてその日は原市場で泊り、翌日は名栗まで、その翌日長い峠にかゝると共にその渓は愈々細く、終《つひ》には路とも別れてしまつた。そして落葉の深い峠を越すと其処にはまた新たな渓が流れ出してゐた。
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朝山の日を負ひたれば渓の音冴えこもりつつ霧たちわたる
石越ゆる水のまろみをながめつつこころかなしも秋の渓間に
うらら日のひなたの岩にかたよりて流るる淵に魚あそぶみゆ
早渓の出水のあとの瀬のそこの岩あをじろみ秋晴れにけり
鶺鴒《いしたたき》来てもこそをれ秋の日の木洩日うつる岩かげの淵に
おどろおどろとどろく音のなかにゐて真むかひにみる岩かげの滝
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 浅瀬石川《あぜいしがは》といふのは津軽の平野を越えて日本海の十三潟に注ぐ岩木川の上流の一つである。其処きりで鱒《ます》の上るのが止るといふ荒い瀬のつゞく辺に板留といふ小さな温泉場がある。温泉は川の右岸に当る断崖の中腹に二個所とその根がたの川原に接した所に一個所と、一二丁づゝの間隔
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